考える
緋影はただ黙って聞いていた。聞いている事しか出来なかった。
「『色』や『罅』を見ただけなら、まだ自身の理性は働く。だが『歪み』を見てしまうと、抑えが利かない時がある。『歪み』を見てしまった者は『歪み』を消すべく、その本能に突き動かされる」
いや、本能とも言い難い、機械的な行動か、と彼は自虐的な笑みを浮かべる。
「心と肉体は不可分だ。心が破壊されれば、肉体が現界に留まることは許されない」
それは緋影に言い聞かせているのか、あるいは自身に言い聞かせているのか。
「そして緋影、この力はお前にもあるんだよ」
「え?」
「今はまだ、この力はお前にはない……でもね、緋影。いつかはわからないが、この力が目覚めてしまう時が必ずやってくる」
なぜ誠一がこの力を呪われたものだと言うのか、当時の幼い緋影には知る術もない。どうして彼がこんな事を自分に言っているのかも。
「緋影、この力を使ってはいけないよ。使ってしまえば、恐ろしい人達がお前を利用しようと近づいてくる。だが……」
誠一はしばらく沈黙したあと、
「人を助ける為に、この力を使うしかどうしようもない状況に陥ったら……よく考えるんだ」
「何を考えるの?」
小首を傾げながら無邪気に問い掛ける緋影に、
「……それは、お前が大きくなったらわかることだよ」
夕日の赤い光を背中に受けながら、誠一は曖昧な笑みを浮かべていた。