実験体
時刻は深夜の一時を回っている。
冷え込みが激しく、夏の夜とはいえ少々寒い。風が公園の木々をざわざわと揺らし、生い茂った緑の葉が舞い落ちる。電灯には再び明かりが灯されているが、それでもかなり暗く感じる。遠くに見える街のネオンが、月と共に公園を少し明るくしてくれる。
そんな中で二人は互いを見つめ合っていた。
葵は公園のベンチに腰を掛けて淡々と語りだす。
「……まず、私達のことを説明するにはこの街で起こっている連続猟奇殺人犯のことに触れなければなりません」
語る葵の姿に、日頃の明るい彼女は連想されない。全くの別人のようだ。
「今回の殺人事件を起こしている者は、とある組織の『実験体』です」
どこかのフィックションのような話だ。
だが実際に怪物じみた者と接触し、葵と白マントの戦いを目の前で見た今の緋影には、それは現実の話として充分なものだった。
「実験体?」
「奴はかなり高い戦闘力を有しており、活動源として人の脳を啜ります。ですがその力に反して知能はそれほど高くはありませんでした」
「でした?」
「実験体は人間の全身をその身に取り込むことでその人物の姿、知識、記憶、思考、あらゆる能力を吸収する事が出来るんです」
沈黙が二人の間に漂う。
「小川さんが取り込まれ、実験体の主体として扱われているのは彼女の体が実験体に適合し、戦闘力が最大限発揮出来るからでしょう」
握り締める緋影の拳は白くなっている。
「彼女の意識は、すでに実験体の意識に侵食されているようです。残念ですが……」
小川さんを助ける事はもう不可能でしょう、と葵は残酷に告げた。